物語三昧の2008年ベスト 小説部門

2008年のベスト(ちなみの今年発刊ではなくて僕が読んだ中で)/海燕さんの記事を見て思いつきの真似です(てへ)
小説部門

1位『ローマ人の物語塩野七生

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上)    新潮文庫ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫
塩野 七生

新潮社 2002-05
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壮大にして悠久のローマ帝国衰亡史。今まで読んでいなかったことは、人生の損失だ!と嘆くほど良かったです。これを一気に読むと、様々な本の読み方が、かなり変わります。本は参照されている根源のモノを読むと、同じテクストからでも引き出せる量が変わります。ローマ帝国の歴史は、読書人(特に欧米や知識人)にとっては、ほぼ常識のようなものなので、ああこれってこの比喩なのか!と驚くことが多かったです。とはいえ、そんな難しいこと抜きにも、田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』バリの血沸き肉踊る戦記ものとしても読めます。ハンニバルが小数で、大軍団を包囲殲滅するくだりなんか、心臓が跳ね上がりました。小説か?という疑問もあるが、小説としても読めます。

1位『二つの祖国』山崎豊子

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)
山崎 豊子

新潮社 1986-11
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あまりに悲しい現実(実話をモデルにしているわけだし!)なので、軽々しく言ってはいけないのかもしれないが、ドラマティツクにもほどがある。日系二世の3人兄弟で、長男はマッカーサーの通訳・情報部隊キーマンで、次男が大日本帝国陸軍のフィリピン戦線の兵士、弟は星条旗のもとでヨーロッパ戦線の勇士・・・『エトロフ島発緊急電』でもそうだったが、この時代の日系二世は、本当に国家に引き裂かれたのだな、と知れば知るほどに、胸に迫る。何が素晴らしいかといえば、やはり、アメリカ側の視点(なのに日系人の視点という複雑さ)から太平洋・大東亜戦争を眺めていることで、様々な相対化が起きて、本当に素晴らしい小説だった。これぞ、THE小説!といえるほどの読み応え。

2位『フェイト・ゼロ』虚淵玄

Fate/Zero Vol.4 -煉獄の炎- (書籍)Fate/Zero Vol.4 -煉獄の炎- (書籍)

TYPE MOON 2007-12-29
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いい意味で期待を裏切られた、まさかこれほどまでに面白く技巧高いとは、と感心した。著者の才能だろう。もちろん、小説として単体で考えると、Fate/Stay Nightというオリジナルあってのものであるわけで、100点をつけるわけにはいかない(単体でも完成しているところが凄いところだが)。しかし、3人の王の邂逅、そしてイスカンダルという造形を作り出した時点で、そういった瑣末なことはすべて吹き飛ぶエネルギーを持ちえた、と思う。ああ、イスカンダルかっこよすぎだよ。この本で終わりにならず、アレクサンダーの業績とか、物凄い広がりと、読みたい!という意欲を感じさせるエネルギーは圧巻です。

2位『時砂の王』小川一水

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)
小川 一水

早川書房 2007-10
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エンターテイメント作品としてのみ考えるならば、小川一水さんの最高傑作かもしれない、と思う。プロジェクトX的大作の『第六大陸』『復活の大地』も素晴らしかったけど、これもまた特別によかった。なんというか、内容に比して、かなり短い作品なんだけど、よくまとめたなーその技巧に感心。A.D.2598に人類は滅亡の危機に瀕し、地球を放棄し太陽系の外延部まで撤退した人類は、ETと呼ばれる謎の異性物と激戦を繰り広げていた。そこで、人類は最後の手段として、タイムスリップしてETが現れる前の時代に対策を打たせるためにメッセンジャーを派遣することに決めた。しかし、過去の遡ったメッセンジャー部隊は、ETも時間を遡って攻撃に出会う。転戦を繰り広げて、防衛に失敗した彼らは、10万年前の人類が発生する時点が、10万年の間全てを防衛することを決断し・・・、、、というお話です。


3位『水滸伝・楊令伝』北方謙三

水滸伝 (19)  旌旗の章 (集英社文庫)水滸伝 (19) 旌旗の章 (集英社文庫)
北方 謙三

集英社 2008-04-18
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楊令伝 一楊令伝 一
北方 謙三

集英社 2007-04-25
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一言で言うと、THE漢!という小説。小説の完成度としては、『水滸伝』は完璧だった。あれは、ああ終わるしかなかったと思う。これを水滸伝というかどうかは意見があるだろうが、異本としては最高の出来だと思う。北方謙三さんのハードボイルドさは、僕は、あまりに男くさくて嫌いだったんですが、ことこの小説に関しては、それがすべて反転して、目頭と胸が常時熱くなりっぱなし。「ああ、おれもこんな風に死にたい!」と思わせる生き様ばかり。志の途中で死ぬやつらばなんですが、「オレは友と志を得た!悔いはない!」とバタバタ死んでいって、志が友と未来に引き継がれていくことを微塵も疑わない・・・これって共和政治の原点なんで、本当は中国社会には似合わないエートスのあり方だとは思うんですが、まぁいいんです最高にかっこいいので。ちなみに、『楊令伝』の小説としての完成度は、まだ不明。まだ終わっていないので。ただし、水滸伝以上に、北宋南宋ダイナスティコンクエストの「あの時代」の力学を素晴らしく広大なパースペクティヴで描きだす手腕には、もう脱帽ですよ。これは長いこともあり、読んでいる時間を考えると、今年最も僕に幸せをくれた小説だったです。

3位『傷物語』『化物語』『偽物語西尾維新
とにかくね、このシリーズは、何度も読み返している。なんというか、会話と関係性だけで、これだけ「読ませる」ってのが凄い。特に目新しいマクロの設定があるわけでもなんでもないんですが、もう、物凄くいいんです。暦くんと、そのハーレムって感じのエロゲーみたいな小説(笑)なんですが、いや、Fateの士郎みたいなもんで、暦くんってそうはいっても倫理が一本とおっているんで、実際にはひたぎちゃん一筋なんだよねーそういうところもいい。ライトノベル的な「ライト」な感じを感じさせるのに、ああ・・・「小説」だなぁと思わせる深みを感じさせるところが、凄く現代的な小説だなぁと思う。構成的には、暦の動機ってのが前提になっていて全然あかされないんだけれども、「そういうことはどうでもいい」ほど、面白いところも脱帽だなぁ。心底面白いと、そういった構造上の問題は、棚上げされちゃうんだ、と目から鱗だった作品。ちなみに、僕は、