『劇場版 機動戦士ガンダムOO ―A wakening of the Trailblazer―』 水島精二監督 人類の正しい発展の次の段階とは?

劇場版 機動戦士ガンダムOO ―A wakening of the Trailblazer―  [Blu-ray]

評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★★4つ)


面白さは?と問われると、まぁガンダム00のテレビシリーズをずっと見ていた人にはわかるお面白さですね。なので、★4つを少し少なくするくらい。ただし、「文脈読み」という意味では、凄く面白い作品だった。というのは、ガンダムサーガでずっと追ってきた、善悪二元論の果てに何があるのか?という意味での次の世代の物語へのヒントがあるからだ。


現代のがもっと歴史を重ねない限り、冷戦的な善と悪の二元論的対立による競争を超える物語を描くとすると、僕は二つの類型しかないと思っていて、そのうちの一つがこれだと思うのです(もう一つは、別途ダークナイトライジングで説明します・・・って、しないかな、、、、)。それは、「人類の革新」と「共通の敵」という物語類型です。この映画は、まさにこのことをはっきり示している物語で、僕にはとても興味深かった。「共通の敵」は、わかりやすいですよね。敵をもう一度作って、内部を統一するのだから、善悪二元論を、大きなカテゴリーで作り直すだけです。


人類の革新というのは、一言で言えば、『幼年期の終わり』です。


幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)


人類が、異なる人類になる、ということ。


ニュータイプという富野さんのファーストガンダムの問題提起って、非常に意味不明、定義不明なところがあって、いったいなんなんだよ?という部分はあったと思います。もしくは、ああいう物語に、ニュータイプのようなニューエイジ的概念を入れることは、ミスジャッジだった!と思う人も多かったと思うんです。僕も、ダメとは言わないけれども、いったい何が言いたいことだったんだろう?というつも首をかしげていました。


けど、こうしてガンダムサーガのテーマをずっと追い詰めていくと、というか、無邪気な戦闘ロボットの設定を、ずっと追い詰めていくと、、、「そこ」に確かに行きつくんですよね。僕は過去の、『ザンボット3』など富野作品をちゃんと分析して追っていないので、きっと、そこをずっと詳細に追っていけば、なぜ彼が「そこ」のテーマを設定したのかが、わかったんだろうと思います。

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丁寧に、善と悪、、、正義の味方と悪の敵を描いて、二元的対立をあおった作品や物語を書いていくと、、、、その果てに何があるんだろう?殺し合いは、結局憎しみの連鎖で、何も生まない。悪だと思っていたやつのことをよく理解しようと(倒す手目に)していくと、「悪」にも悪の理由があって、、、、という風に袋小路に陥ってしまう。これは、80年代のアメリカ映画の西部劇の解体の系譜を見ていくと、よくわかります。『ダンスウィズウルブス』『ラストサムライ』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』と見ていくと、最終的には、この話は袋小路になる。どっちも正しいというか、どっちにも、それぞれの積み上げてきたストーリがあるという話にしてしまっては、話が進まなくなる。ちなみに最後の作品の監督のクリントイーストウッドは、この後、自分とは異なる次世代への継承と憎しみからの和解と統合というテーマで『グラントリノ』『インビクタス/負けざる者たち』という傑作の映画を描いている。これは、この系統の一つの答えといえるが、、、、。

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少し戻って、では、政治的にそれを解決する方法があるか?といったら、それは、一足飛びに地球連邦政府に飛んでいくという方法もあるが、それでは、オーウェルの『1984』や『未来世紀ブラジル』の全体主義国家をどうしても連想してします。力による弾圧による統一。ネオリベラリズムです。

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では???と現実を見渡せば、国際均衡主義という形で、第三極、、、相互対立にならないためには、同盟のという概念が必須になり、かつ最終戦争に陥らない第三極が必要だ、ということが分かった。しかしながら、これは、ガンダムSEEDやガンダム00で描いたように、第三極がバランスが取れると、世界は地球の統合に向かって緩やかな発展の道を示し始めます。←いまここ。これが、いま私たちの住む、現実の地球です。


ちなみに、SEEDから00と流れることによって、対等な武力をもった3軸のバランスが生まれると人類は、地球連邦政府という一つの調整機関を持とうとすることや、コロニーや起動エレベータといった宇宙開発のフロンティアが生まれると、人類の可能性がぐっと広がって世界の動的バランスが取れるさまが描かれている。こうなると、ここに「至る」までの憎しみをどう昇華し和解と統合にいたるのか、というのは、イーストウッドが描いたテーマと重なる。そして、それって憲法一般意思の発生がどこで起きるか?って問題とかと絡むんだろうと思うんだけど、それこそがまさに、いまの福井さんが描くガンダムユニコーンのテーマですよね。


機動戦士ガンダムUC (9)  虹の彼方に (上) (角川コミックス・エース 189-11)機動戦士ガンダムUC (10)  虹の彼方に (下) (角川コミックス・エース 189-12)


しかし、、、「ここ(=善悪二元論を克服する地球連邦政府の樹立の一歩手前)」まで描くと、話が停滞するんです。だって、『漸進的に進む民主主義』ほど面白くないものはないからです。何かといえば、矛盾を矛盾として、我慢しつつ一歩進んで半歩下がりながら、そうやって戻ったりしながら、じりじり上がっていくことです。そういう「ゆっくりさ」に耐えられない人はこの世界にはたくさんいます。


でも、それが多分正しい答え。いまのところ。


では、じゃあ、もう少し飛躍してマクロのビジョン、それも歴史や人類というスケールで、「その次」を考えるとしたら?という話になってしまうんです。ここまでくると。さてさて。


ちなみに、ほんとにルイさんの記事はいいので、おすすめです。



『劇場版機動戦士ガンダム00』+追加舞台挨拶(ネタバレ配慮版)

http://rui-r.at.webry.info/201009/article_6.html


『劇場版機動戦士ガンダム00グラハム・エーカー沙慈・クロスロードが見せた「戦場の花」
http://rui-r.at.webry.info/201010/article_1.html