『青春18×2 君へと続く道』2024 藤井道人監督 日本より南にある土地から来て、僕たちと同じサブカルチャーの原体験を持つ人の目を通した異国日本の風景

評価:★★★★☆星4.8
(僕的主観:★★★★☆星4.8)

青春18×2 君へと続く道』を、日比谷のTOHOシネマズで鑑賞。5月25日(金曜日)19:05の回で。小さい箱だけど、満員だった。いつものごとく映画ブログの『ノラネコの呑んで観るシネマ』を見て、見る作品を選んでいるんですが、台湾映画はなるべく見たいと思っていて、なんだか「新しい時代」に入っている気がして仕方がないんですよね。たぶん、見たこともないセンスオブワンダーが見れるんじゃないかといつも期待してしまうんです。台南の高校生が、バックパッカーをしている日本人の女の子に出会って、初恋をして、そして、18年後に彼女の故郷を訪れようとして日本の各地を旅する、もうそのシュチュエーションだけで、ご飯何倍もいけますって感じがしたので。いま、5月で気候が良いせいか、フットワークが軽くて、劇場に足を運べているので、行こうと見に行きました。自分の嗅覚は、ほんと外さない。さすがの映画体験でした。ちなみに、僕のブログは、常にネタバレです。

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🔳ロードムービーらしいロードムービー〜日本より南にある土地から来て、僕たちと同じサブカルチャーの原体験を持つ人の目を通した異国日本の風景


台湾の実業家でありゲームクリエイターのジミー(シュー・グァンハン/許光漢)が、会社を追われた(スティーブ・ジョブスみたいに)たところから、物語は始まります。大きな挫折を体験した彼が、台南の実家に帰ったときに、自分の部屋に残っていた初恋の人からもらっていた手紙を見つけるんです。足を怪我してバスケをあきらめてやる気がなくなっている高校三年生の夏休みに、日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会って、ずっと、忘れられないでいたようなんですね。その彼女の故郷を訪ねるという脚本になっている。


とにかく素晴らしいロードムービーでした。台南から東京、湘南、長野県の松本、新潟の長岡、そして福島の只見へ。ジミーとアミの出会いの過去を思い出しながらの旅。基本の構造は、会社を奪われて放逐されたジミーが、失意と挫折の中で、過去を思い出しながら、日本を旅するんですね。ロングショットが多く風景を実感できるロードムービーなので、大画面で見ると映える。アミが絵を描く人でもあるので、彼女がジミーに送ったハガキの裏にある手書きの風景が画面いっぱいに広がる時の感無量感は、とてもエモーショナルで、胸がジンと来ました。


しかし、何よりも、主人公ジミー役の許光漢(シュー・グァンハン)の一人旅の視点で映される「日本」の風景が、我々にとっては、お馴染みなのに、ちょっと外国の、異文化の、、、そして、たぶん南国の人からは、ファンタジーのように体験しているだろう日本の風景の「異世界のような感覚」が伝わってくる。もうこの感覚だけでも、既に最高の体験なんです。


そして、それだけじゃない。


このちょっと外国人の視点から見る日本には、もう一つ凄い魔法のスパイスがかかっている。18歳のジミーは、バスケを挫折した経験があるようなのだが、彼にとって、そして彼の世代の高校生にとって、『SLAM DUNK』は大ファンだったのだ。だから、日本を一人旅しようとして、最初の訪れるのが聖地、鎌倉高校の前の湘南だ。聖地巡礼が、こんなにも美しいなんて・・・。「鎌倉高校前1号踏切」。アニメのオープニングに登場する有名な場所ですね。



スラムダンクの「聖地巡礼」 鎌倉高校前駅の踏切(神奈川県鎌倉市) おもてなし 魅せどころ - 日本経済新聞


南の方に住むアジアの人にとって(雪がまず降らないので)、日本の雪の体験は、相当の異世界体験らしいのだけれども、「それ」だけじゃない。主人公がトンネルを抜けた瞬間に見る雪景色につぶやくのは、


「まるでLove Letterの世界だ・・・・」


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そう、アミと二人で見た映画なのだが、この映画の雪景色を見て、日本の北海道は、旅行先としてアジアで大ブレイクしたのは有名な話ですね。岩井俊二監督のLove Letter体験が、地域を超えて共有されている様を僕は強く実感しました。自分自身も、台湾、韓国、中国の友人たちの、SULM DUNKや岩井俊二村上春樹などサブカルチャーへの深い深い思い入れはたくさん聞いたことがあるので、ああ、本当に深くブッ刺さっているんだなと感心します。


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見ている風景は同じでも、それを体感する感覚は違います。台南生まれの台湾人にとって、雪景色はセンスオブワンダーでしょう。でも、その違いは、これらのサブカルチャーの共有体験を重ねてみると、それがだけではなく、「つながっている」という強い感慨を呼び起こします。僕は、この辺りのサブカルチャーの体験はど真ん中の世代なので、あまりの「つながっている」感に、驚きを超えて、絆すら感じます。ああ、こんなにも、同じ時を生きてるのかって。



この、台湾であろうが日本であろうが、同じ時を生きている、という実感があると、このジミーとアミの初恋の物語が、見事な輝きを帯びます。いやはや、本当に素晴らしい映画でした。



ちなみに、この映画における岩井俊二監督の『Love Letter』の位置づけはめちゃくちゃ重要で。ぜひとも、見たことがない人は、見る前に鑑賞しておきたいところ。また終わったら、絶対もう一度見直したい!と思うはず。この映画は、藤井道人監督のから岩井俊二監督へのアンサームービーになると思います。アジア映画に与えた岩井俊二インパクトを、ここでもさらに実感した。最近、デレク・ツァン監督の『ソウルメイト/七月(チーユエ)と安生(アンシェン)』を見た直後だったので、ため息が出る気分でした。あ、いや、アジア映画どころじゃないな、、、、東アジアにおける岩井俊二体験は、たぶん、この世代の台湾、韓国、中国の、この世代の原体験としてブッ刺さっている。


もういっこいうと、初恋の人であるアミとの初めてのデートで、ジミーがなんとか手を握ろうとして、この映画を誘うのだけれども、「あまりに映画が素晴らしくて、手を握るのを忘れてしまった・・・」と話すのは、なるほどと頷きながら笑ってしまいました(笑)。こんなメガトン級のすごい映画を始めてみたら、全てを忘れるよって確かに思う。そして、この背景、脚本の構造で、アミがこの内容見たら、、、、そりゃそうなるわなって、もう深く納得でしたよ。ああ、そういう意味では、Love Letterの内容を知っているといないとでは、なぜいきなりアミが実家に帰ると言い出したのかが、納得度合いが全然違うでしょうね。そりゃ、号泣するよ、あの内容見たら。

1点、ネガティヴな意見を言うのなら、やはり、恋愛系の物語の骨太王道が極まっているので、「ああ、またそれか・・・」的な我に帰るほど、普遍的な、言い換えれば典型的な死を人質にしたラブロマンスになっているところ。ここから、きれいに卒業しようとすると、ロジック的に主人公が死ぬと言うのはよくわかる。わかるけれども、またそれかぁ的な既視感は、少なくとも僕にはあって、素直に感動するのを少し阻む効果があった。もちろん、そもそも上記の日本の風景における「視線」がかなりずらされて意味を持つロードムービーであるからには、脚本は王道で、気を衒う必要がない、むしろこれこそがベストというのは制作視点としては、わからないでもない。この辺は難しい選択だった気がするが、やはりゆっくり「日本の景色」をロードムービーにするという部分の尺を多く取ると、ヒロインが生き残って、その次の成長譚に繋げるのは難しかったと思うので、これでベストかなぁ。この辺りは、藤井道人監督の『余命10年』と比較して見てみたいところ。


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