評価:完結していないので未評価
(僕的主観:★★★★★星5つ)
「歯が丈夫」という理由で地理学者バットゥータ先生に買われた奴隷リタ。
って、これがキャッチコピー(苦笑)。表紙のデザインも、地球の歩き方風で、またよし。
めちゃくちゃ好きでハマっています。もちろん元ネタは、14世紀に30年以上かけて三大陸の周遊記を描いたイブン・バットゥータの『旅行記』から。
・ギリシャ系の奴隷であるリタという少女の目から見える世界のセンスオブワンダー
・サウィーク(焦がし大麦)などご当地グルメを楽しむ日常グルメマンガの視点
この辺りが、軽くてとても読みやすい。1巻読んでいると、当時のアラブ世界の政治が驚くほど機能している様が見てとれる。こういうのって、奴隷の無力な女の子の利他の視点からだから、スッと入ってきやすくて、原本読んだときには読み解くのが苦労したやつも、「あっ、そういう空気感なんだ」と思えるので、すげぇ理解しやすい。
それにしても、リタの視点が、素晴らしくいい。ぐっとくる。
旅をしているし、巡礼などもあるので、マムルーク(白人奴隷)や様々な立場の人間と出会うのだが、、、、なんといえばいいのか、どの時代、どの世界に行っても、身分の上下、強いものと弱いもの、自分の意志で自由を求めるもの、意思を放棄するもの、、、いろいろいるんですよね。それを見ながら、リタは、何を思い、何を望むのかって、すごい胸にグッとくる。
全編に、強いものが弱いものを虐げる格差の構造の世界の中で、でも、それでも人間らしく生きようとする人々の思いが垣間見えるところが、美しい。騙されて安いお金で米を売り払ったことを反省していると、「間違えるってことこそ、、、自由なんじゃないかな」というシーンや、それで自分で判断するのをやめようとしたけど、商人が「難しいことわかんないけどよ、間違ったら誰かが助けてくれるんじゃねぇかな」とかいうシーンとか、人間の共同体は、長く続いているものは、ああそういうもんだよなぁってグッとくる。
このとき偶然一緒にいた孤児の女の子は、孤児なのに医者になりたいと思っていたんですが、、、、諦めきれないので、メッカの近くにいる医者のじじいに自分を奴隷として打って勉強するって決めたって、いうんですよね。いや、なんか、、、、あーどんな世界の過酷な構図でも、生き抜こうとする意思を持つ人はいて、世界はそうして回っているんだなぁって、グッとくる。
いや、このマンガ、いいですわ。
リタって、ご飯大好きな、天然少女なんですが、、、結構きついこと迫られてるんですよね。一緒に旅している王族のアラエディンに、紙で日記を書いていたら、そんな暇あったら愛嬌振り撒いて主人のバットゥータに抱かれた方がいいんじゃない?奴隷は人間じゃないんだから、そんなことしても無駄だよっていじめられるんですよね。文句を言ったら「そんなんじゃ女としての魅力ゼロだよ」とか切り捨てられる。
なんというか、バットゥータ先生が変な人なんで、話がややこしくなって、悪い方向に行かない(笑)んですが、リタの立場って、生きていくのにすごい覚悟がいるんですよね。その覚悟のなさをガンガン攻めったてられてる。でも、確かに生きるって、そういうこと。理想じゃ腹は膨れない。
みたいなことを悩みながら、やっていることは、確かにグルメツアーの旅(笑)。
素晴らしい。
Souffleで連載しているのかな、、、。僕は単行本派なので、あまりウェブサイトや雑誌でどこで何が連載しているかがいつもいまいち分かっていません。トマトスープの『天幕のジャードゥーガル』も連載しているし、秋田書店のエレガンスイブ編集部が運営しているようですが、趣味が良すぎる。こういう歴史系の、それもあまりに、、、そこはマニアックすぎない!という分野を、しかしながらちゃんとエンタメにして物語作れるこれらの作品は、いつも最高です。
こういう歴史もののマニアックなのを、エンターテイメントとして仕上げて、それなりに需要があるのが、日本のマーケットのマニアックさでいいなーと思う。
ちなみにどうでもいいのですが、『歴史雑記ヒストリカ』をよく聞いていて、この中のとうもろこしとかビールとか紅茶とか、食べ物の歴史を何回も何回も聞いていると歴史の見方が、ガラって変わってくるんです。紅茶の歴史が典型的ですが、凄まじく深く世界がつながるグローバルヒストリーだからなんですよね。モノとお金のつながりが、アップデートされるので、それまでの世界の歴史がガラっと見え方が深まる。これって高校とかの地理の授業でやる内容なんですね。うちの子供たちのテストの暗記を手伝って、地理の宿題とかレポート見たら、こういう設問ばかりで感動しました。いまの子供達って、すごい授業受けているのね。もしくは、地理総合って、受験で無視してやらなかっただけで、こういう深い教養が30年前とかでもあったのかもしれないと思い、勉強足りなかったなー自分としみじみ思います。
とにかくおすすめです。