『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』 神戸守監督 精密な風景の密度がとても美しい秀作

ソ・ラ・ノ・ヲ・ト 1【完全生産限定版】 [Blu-ray]

評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★★4つ)


■全体として秀作

ラジオでいろいろ予測したので、せっかくなので頑張って全部見た。うん、、、12話の1クールの企画としては、相当のものだよ。あと脚本に無理がない(最後の3話以外は)。なによりも背景のキレイさがさまざまなモノをカバーしてしまう。基本的には、「水準」を超えている作品だから、素晴らしいと思う。けれども、逆に水準を超えているだけに、もう一歩と思ってしまうのかもしれない。見応えのある秀作でした。ただし、いずみのさん、LDさん、ルイさんにかなり期待値を下げる説明を受けていたという部分もあり、客観的に自分の心理やモノの見方の基準から言うと、LDさんの「残念」というのは、非常によくわかる。この演出の順番で、最後の方向性は、たぶん、ちょっとずれていると思う。たぶん期待値の引き下げがなかったら、相当残念に思ってしまったと思う。LDさんは、ちょっと『血と砂』的なモノを重ねすぎだとは思うが(笑)・・・・むしろLDさんの語っていた『ソラノヲト』マジで見てぇ・・・・僕は、そこまでだめだったとは思わないけれども、やっぱり、うん、残念とかおしいいうのが、トータルの感想。だって、凄くいいのだもの。基本ラジオでもいろいろ言ったし、ここでも書いているけれども、凄く良かったが故に、言いたくなっちゃうという感じ。


■ほんとうは『けいおんオルタネイティブ』が見たかった

・・・『けいおんオルタナティヴ』としては、やや残念(笑)だけど、『ソラノヲト』としては、とてもよかったよ、とそう評するべきなんだろう。12話の話としては、文句はあまりないなー。思ったより、中間と最後の接続も悪くない。

あっと、『けいおんオルタナティヴ』ってのは、この作品の主人公のカナタが、『けいおん』の主人公の唯ちゃんに似ていることから(実際には、ほとんどオマージュに近かった模様)、アージュの『マヴラブ』と『マヴラブオルタネイティブ』関係と同じで、『けいおん』の世界観とメンバーに「戦争」という深刻なマクロの背景を挿入したらどうなるか?ってのが見たいんだ、、、と『けいおん』の感想で、僕が言っていたことがあり、、、このゆるーい関係性(けいおんのメンバーと位置関係が非常に似ている)に戦争という背景があることで、「そういうやつ」みたいんだ!といったいたやつです(笑)。

ちなみに、僕の中ではもともと『けいおん』(←けっこう好きなんですよ)をゆるーい、けどいい感じの人間関係を見ていて、ああいうの見ると、直ぐに並行世界で、きっと唯は、音楽が好きで薄着でたまらなかったが、戦争に行くしか音楽をする手段がなくて(笑)(ってなんだよっ!)、最後に戦争を止めたんだけど死んじゃったとかいう、凄い悲劇があって、それの生まれ変わりなんだから、絶対音感の持ち主で、練習しなくても上手くなるんだ!(笑)とか、ジョークで考えていたので、そのことと、『ソラノヲト』の設定とキャラクターが似ているので、ビタッと、つながってしまったんですね。こういう脳内補完は、物語を見慣れている人は、すぐ感じてしまうものだと思いますよ。

LDさんは、邦画の岡本喜八監督の『血と砂』のアニメ版が見たいというような言い方をしていましたが、それも僕の持っている志向と同じです。ようはね、炎の乙女という伝説や、毎日の幸せな関係性にフレームアップした日常の描写を「積み重ねる」ことをしていけば、最終的に、それを壊す形の「悲劇」で話を持っていく姿を演出の順序としては、納得をもたらしやすいと思うんですよ。僕も1話の炎の乙女の伝説や「この世界が終末に向かっている」という緩やかな滅びを前提としていること、そして、2話〜8話までどちらかというと、「死のにおい(僕は感じました)」を感じさせながら、淡々と、砦の日常の関係性の温かさを積み重ねていく演出をみて、ああこれは悲劇に終わらせる方向だな、と思いました。それで演出方向が「悲劇」に向いているとするならば、『けいおん』的な女の子が戯れる永遠に続く日常をぶち壊す悲劇を、強烈に描くことを連想してしまいやすかったんだと思います。

■カードのめくり方が残念な感じ

逆に演出が、もっと戦争の悲劇や日常の滅びゆく世界の苦しさを延々と前半で描いた場合は、ラストのその戦争を「止める」というシーンは、カードのめくり方の順番(=納得の構造)としては、僕は納得できたと思います。でも、これ演出が逆なんですよね。僕はそう思います。もちろん、そもそもの企画意図というか企画の前提として、『けいおん』的な女の子たちの緩やかで幸せあ日常を描くのが目的(=制限)であれば、最後の非日常を無しでそれのみに終始するか、もうちょっと最後の「戦争を止める(=あり得るわけがない奇跡)」をより「ありえなく」感じさせるために、もう少し8話までの積み重ねを別にしてほしかったなーとか。


あと、やっぱり究極的には、最後の3話は少し早く描こうとしていて唐突感があった。この3話が、2クール分あってもう少し緩やかにゆっくり演出できたら、感想も違ったかもしれないが、演出の順番があいまいで且つ、ルイさんの言葉を換えれば「要所要所のベクトルを絞り込めていない状況」で、あの3話は話が性急すぎた。3話分単体での「物語」は、悪くないと思うので、やはり接続が悪かったのと、3話に高い納得性をもたらすほど時間的な余裕がなかった、という感じ。

たとえば、、、、敵軍の斥候を見つけて報告しない軍隊というのは、いくらなんでも・・・・(苦笑)。この辺が、隊長と中央政府(リオのことね)つながりを描いていないと、、、ちょっと、えっ、それは、、、と思ってしまうなぁ。あっとね、、、そうそうこの作品1クールという時間的制約からだと思うのですが、中央政府で発生しているマクロの話が皆無なんだよね。だから背景が、いまいち???。これ、最終3話で、リオが中央に戻って戦争を止めようとしている描写と、それにギリギリ間に合わない!!!ということが分かる描写をもう少し丁寧に入れて置けば、隊長がほとんど反乱に近い行為をしながらでも戦争を止めようとすることの意義が分かるんだけれども、それがないと、いくらなんでも兵士が、軍人が、、、そんなことありうるか!って思ってします。一砦の隊長にマクロの戦略情報があるわけないのだから(リオから知らされない限り)、それによって自分の国が侵略されて可能性を「賭け」の対象にはできないって。

あとね、カナタがいなくても、砦の女の子たちはそれぞれに抱えたトラウマ(仲間がみんな死んでしまった隊長とか、孤児になった女の子とか自らの運命を受け入れるリオとか・・・)は自力で乗り越えているんだよね。本来は、演出的には、彼女の無垢さでも彼女の成長でもどっちでもいいのだが、それが砦の女の子たちの内面を変えていった、とかそういう積み重ねがないと、彼女の音楽が「特別」であるという理由も薄れてしまう。つまり、彼女の音楽が「なぜ故に兵士の心を捉えて戦争を止めさせたか」という「積み上げも」弱いということです。

けいおん! 2 [DVD]