『それでもなぜ、トランプは支持されるのか: アメリカ地殻変動の思想』会田弘継著 2016年からはじまるサンダース・トランプ現象を高解像度で読み解く

客観評価:★★★★★5つマスターピース
(僕的主観:★★★★★5つマスターピース


【物語三昧 :Vol.228】①宗教右派を見下す姿勢が現状認識を誤らせる
https://www.youtube.com/watch?v=mkX0MeQs7Ac&t=10s

【物語三昧 :Vol.229】②絶望死が示す先進国中産階級の崩壊に対する見下しが現状認識を誤らせる
https://www.youtube.com/watch?v=9bgYN50SmnM

【物語三昧 :Vol.230】③-トランプ現象のその先はどこへ向かうのだろうか?
https://www.youtube.com/watch?v=9IhysY6Nqas&t=6s


2016年から始まるサンダース・トランプ現象を読み解くことは、ここたぶん10年ぐらいの歴史がなんだったか?を読み解く大事なキーイシュー。それに、ペトロニウスは、2013年から8年ほどアメリカに住んでおり、自分の米国での経験をどう理解するか?という意味でも、人生史と結びついており、ずっと理解したかったのですが、「問題の根本」になかなか手が届かず、いつも「もやもやした不可思議さ」を感じていました。それは、まさにこの現象が続く「感覚」とシンクロしているわけです。

先にペトロニウスのが思っていることを述べておくと、この本に出会えてよかった!!!!つてことです。要は、この10−20年が、どういう世界に自分が生きていたか?の疑問がかなり根本的なところか解像度高く分析されていて、そうか!エウレカ!!!(=そうか、そういうことだったのか!)と理解できたんです。これほど興奮した読書は、何年ぶりだろうって感動でした。会田さんの本やコアな要約は、本人の著作を読むべきだと思うので、あまりここではまとめませんので、この記事は僕の感想です。ただ一言で言うと、2016年になぜドナルド・トランプが登場してきたかの答えがはっきり書いてあります。アメリカウッチャーとして、いろいろな人の著作や意見を見てきましたが、これほど明確で、視覚も射程距離の深いものは、日本語では他にないと思います。


「幸福な国はトランプを大統領に選んだりしない。絶望している国だから選んだのだ」と叫んだタッカー・カールソンの言葉に代表される、アメリカ人の怒りが、よくわかります。


さて、自分の感想にいきます。このモヤモヤの感覚を言葉に表すと、アメリカに住むマイノリティとして、差別発言を煽りトランプさんにとてもじゃないけど支持できない、2021年コロナの時期の「チャイナ・ウィルス」を叫ぶトランプさんの発言によるアジア系の差別は、本当に怖かったことです。しかし、ではヒラリーさんやバイデンさん、ハリスさん、、、何よりもオバマさんを支持できるかというと、とてもじゃないけど支持できない。トランプさんは、第44代バラク・オバマ大統領び対する対抗意識が強いのですが、反オバマの感覚は、未だ根強くあるのだと思います。グローバリズムのきれいごとの上部だけで、グローバルエリートだけを優遇する世界を作り上げる格差社会に、自分が「勝つ側」として生きるイメージがなかったので、なんかなぁという不満は常にありました。米国に移住していてベンチャー企業のマネジメントをするようなグローバルエリートであった自分ですら、なんか行き過ぎだと感じるくらいだから、当時のアメリカのグローバリズムへのシフトは凄まじかったんだと思う。とはいえ、当時(2010年代)は、ではバーニー・サンダースさんが一番実感としてはあっていたが、あの急進極左の若者たちの暴力やポリコレ行き過ぎによる秩序破壊も感覚に合わなかった。WOKEの若者への、違和感は本当に強かった。あれの行き着く先は、『シビルウォー』でしかないだろといつも漠然と思っていた。そもそも、僕はコミュニズムが大嫌いなので。

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この辺のバランスが難しくて、僕はグローバル化の信奉者だし(そもそもそういう仕事を人生かけてやってきている)、自分の年代してもかなりリベラルな多様性を受容する価値観で生きてきている人だと思うのですが、その極端バージョンのWOKEやコミュニズムなどのリベラルなレフトウィングに対して、シンパシーが感じられないんですよね。かといって難しいのは、じゃあ古き共同体信奉者の右翼的な保守なのかというと、そっちも大嫌い。なので、立ち位置が難しくなって、うーんとなってしまうんですよね。このあたり、ジョージ・フロイドプロテスト運動やさまざまな事件を見ながら、ずっと、うーんうーん唸っている様が見えます。左翼にありがちな、その最初の意図と動機はわかるんだけれども、手段がひどすぎて、帰結が秩序の破壊と暴力しか生まない。

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また自分はアメリカ企業に勤めていたので、中国との関税問題は本当にめんどくさかったけれども(関税の計算とか本当にめんどくさかった・・・)、しかしトランプ政権時代は、実感として経済は安定して、景気は悪くなかった。会社の業績も最高だった。けど、オバマ時代は最悪だったし、バイデン政権のインフレも、本当にしんどかった。僕はオバマ時代には、アメリカのロサンゼルスでベンチャーの経営者でしたので、従業員にインシュアランスなどをフリンジベネフイットで付与していて、こ、こんなにアメリカの医療保険問題って闇深いんだと、驚嘆したのも覚えています。オバマケアの問題点も、、、、。こうした感覚は、会社だけではなく、一市民としてもこの感覚はシンクロしていた。たぶん、未だにドラマではアメリカ最大とも言える熱狂で受け入れられたのは、『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』だと思うのですが、この時の中産階級が崩壊している中で、自分が堕ちていき、気づいたら怪物が生み出されていく様は、まさに、トランプ・サンダース現象と強烈にシンクロしていていますよね。

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また僕は、普通のアメリカ人とは違うのは、自分は日本人であり、団塊ジュニア世代の男性で、言い換えれば超氷河期時代の新自由主義社会をマジョリティとしてサバイバルして、生き残った立場だから、この「あれだけ頑張って生き残ってきたのに」、あなたたちの生き方そのものが差別的で、許されませんというポリコレ的断罪には、論理的にはわかる部分もあるけど、なかなか受け入れられないという保守的な高齢男性の米国人の感覚もまた共感がある。自分が、日本人としては、マジョリティの特権を持つ身であり、同時に、米国社会ではアジア系というマイノリティの立場だったんですよね。この矛盾のせいで、両方が体感的に共感、理解できた。

ちなみに、2020年のトランプVSバイデンの選挙戦の総括の記事が以下なんですが、本当にこれでいいのか?って悩みに溢れていますよね。タイトル自体が、アメリカの半数がトランプさんに強い支持があるんけど、少なくとも、民主党側は一時期のおかしな現象という扱いで、それを根本的に手をつける意識が感じられないので、、、これって燻るんじゃないか?って強く感じているんですよね。この問題意識を直視しているのが、当時も、やはり会田弘継さんだなって書いているので、自分の視点のセンスはいいなって感心します(笑)。

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ここで描かれている話は、「程度問題が行きすぎている」という話なんだろうと思う。僕はグローバリズムポリティカル・コレクトネスによるリベラル的な浄化は、基本的に世界をよくするし賛成する立場です。これはそもそもの大きな僕の基本路線。

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だけれども、この「行き過ぎによる」言葉狩りや秩序や歴史の解体まで含み始めると、ペースダウンして「振り返る」ことが、少なくとも2020年代には必要な感じがする。たぶん1990−2000年代の中国やインドなど新興国の激しい台頭と中産階級が人類後半に分厚く形成されていく時期では、「突っ走る」ことは正しかったし、それ以外はできなかったし、それによる世界全体の良くなっていくことには、正しさがあった気がします。でも、「このこと」による影響の一つが、いわゆるエレファントカーブですが、先進国の中産階級の解体を招き、これまでの秩序を解体し始めると、「この問題」を解決しないで、「突っ走る」ことは、ある種の多様性やポリコレの過剰暴走による、左翼的な社会の解体を招くんだろうと思います。グローバリズム新自由主義的なものが生み出す、格差や問題に対して、目をつぶって「突っ走る」では解決にならないと思うんですよね。

それと、会田弘継先生の本を読んでよくわかったのは、リスペクトされないで尊厳を奪われた層がいると、社会は必ずバックラッシュを生むということです。会田先生の分析で、米国がなぜ混乱しているかというと、「行きすぎ」る時に、尊厳を踏みにじられて無視されて踏みつけられるエネルギーが大きすぎるので、それへの反動もまた大きくなるってことです。これはよく巷で言われる弱者男性とかの問題とも構造は同じだと思います。日本社会における団塊の世代、昭和臭がするパワハラ高度成長期世代への否定の感情とかとも同じだろうと思っています。だってそうですよね?。フェミニズムというか、尊厳が踏み躙られてきた女性が豊かに幸せになることは大事なことなのは、誰も否定しない(できない)と思うのですが、「その為に」ほかの秩序や立場の人を際限なく貶めていいわけではないからです。加害者だから、償いの名の下に搾取、解体して、踏み躙っていいとなると、それは復讐、血讐社会であって、マクロ的にそれは社会のサスティビナリティを壊す。昭和臭のする団塊の世代(私の親の世代)は、その下の団塊の世代ジュニア世代の自分は嫌いですが、かといって、彼らが日本の身を削って高度成長を支えていた社会を維持するのに「構造的な必要な部分」をどうちゃんと考えて、仕組みをつくるか?、彼らを穏やかに退場してもらうには、どのような尊厳の維持が必要か?などなど、そういうある種の、世代や、大きな仕組みの維持の継承を担う責任者として、左翼的な「ただ壊せばいい」とか右翼的な「ただ古いものを守ればいい」みたいな、頭の悪いことをしていると、常に本質的に大事な、社会=人々が生活して幸せを感じる日常世界が壊れてしまうんですよね。アメリカは、その辺の振り子の行き過ぎによる、「行ったり来たり」を憲法によってバランスをとるなんというか、「振り子の行き過ぎ、揺り戻し」を繰り返して強く大きくなってきた国家なのですが、かなり根本的な構造問題として、いま問題が持ち上がっているので、これがどうなっていくは、とても興味深いです。大きな視座で気になっているのは、やはりバンスさんですね。

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🔳参考

「幸福な国はトランプを大統領に選んだりしない。絶望している国だから選んだのだ」。トランプ派として、主流派(すなわち進歩派)メディアから袋叩きにされている元FOXニュースの政治コメンテーター、タッカー・カールソンが著書『愚者の船』(2018年、Ship of Fools:未邦訳)に記した言葉だ。「人々はトランプを選ぶことで、政治家やエリートたちに向かって『クソ食らえ』といっているのだ。それは軽蔑の所作であり、怒りの叫びであり、何十年にもわたった身勝手で英知もない指導者らの、身勝手で英知もない決定の帰結なのだ」。カールソンはこう述べたうえで、断固たるトランプ支持者となった(Tucker Carlson, Ship of Fools, Free Press, 2018, p. 3.)。

中略

今日のアメリカの民主主義が抱える諸課題の根本的な背景は、経済格差である。これがアメリカ知識社会が達した結論である(アメリカ芸術科学アカデミーが建国250年[2026年]に向けて行っている民主主義再構築のための作業が生んだ2つの報告書“Our Common Purpose” [2020], “Advancing a People-First Economy” [2023]参照)。

格差は学歴(大卒以上と高卒以下)、地域(大都市・近郊とそれ以外、沿岸部と内陸)……で広がる一方だ。また、かつては親の収入を超えていった子の世代が、それを超えることができなくなっている問題も起きている。機会の平等や持続的成長といった、アメリカンドリームを支える基本的要素を享受できる人が限られて、「階級社会」が生まれだしている。それを「封建社会」とまで呼ぶ学識者もいる。過去数十年のプロセスを経て、アメリカはアメリカではなくなりつつあるのだ。

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それを生んだのは2大政党の「共犯」による結果だというのは、以下のような2つの長いサイクル(①1930年代〜70年代、②1980年代〜2010年代)の中で考えてみる必要がある。①はニューディール期であり②はネオリベラル期と大きく括れる。現在は再び転換期となっている。

今日、民主党が高学歴で金持ちのエリートたちが支持する政党で、共和党が労働者や農村部に暮らす人々が支持する政党になっていることは、さまざまな指標が示しており、広く知られている。ジョー・バイデン政権に入って、ますますその傾向は強まっている。

中略

つまり、米政治は左右の分断の激化で混迷を深めているといわれるが、むしろ上下の分断が深刻なのである。階級闘争が起きつつあるのだが、それを左右の闘争に見せかけようとする言説がはびこるのは、一種の偽装とみるべきだろう。妊娠中絶や人種問題、歴史認識などを前面に出す「文化戦争」が偽装の道具に使われている。アイデンティティ政治である。

アメリカのグローバル企業の中核はIT・金融系だが、そこには世界中の高度な人材が集まるから多文化主義や多様な性的指向への寛容は自然であり必要だろうが、取り残された地域の人々には古くからの価値観を捨てる理由が分からない。前者が後者を見下せば激しい摩擦が起きよう。「文化戦争」も経済格差、階級問題として考えてみる必要がある。

現在は共和党がそうした階級闘争の中下層階級側の受け皿になっているのだ。大統領選の選挙資金でも、IT系や金融業界の大口献金民主党バイデン側に集中し始めており、共和党トランプ側はむしろ庶民の小口献金を搔き集めて、それに対抗する構図になっている(Nick Reynolds, “Democrats Being Party of the Rich Could Cost Them 2024 Elections,” Newsweek, Jun. 14, 2023. )。

中略

民主党はやがて、飛躍的に発展する21世紀の新産業界とそこで高収入を得るエリートらと結託する企業政党となる。他方、共和党は衰退産業(製造業・エネルギー産業)と、そこでの職を失ってサービス産業に入り込むなど、不安定な雇用環境に置かれる労働者らの支持をナショナリズムで引きつける政党となっていく。

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こうして中間層の崩壊が起きる一方で、AIGの事例のように税金で救済された大手金融機関の幹部らは莫大なボーナスをむさぼり、IT産業は規制のないまま稼ぎまくって、巨大な利益を得続けた。

IT産業と民主党の強い結びつきがそうした野放図を許したとみられた。オバマ時代は格差が著しく広がり、沿岸部と内陸部の分断も顕著になっていった。

2010年中間選挙民主党が下院で63、上院で6と大量に議席を失ったのは、当然であった。白人労働者票や農村部票は前回選挙に比べ23~25ポイントも減らしている。2008年大統領選当時のオバマ熱は、2010年にはすっかり冷めた。2011年には『ニューリパブリック』記者の調査報道に基づく本で、金融業界優先のオバマ政権の体質が暴かれることになった。

2011年秋にニューヨークで起きた「オキュパイ・ウォールストリート(ウォール街を占拠せよ)」運動は、まさにこうした状況(特に格差)への激しい市民(特に若者)の怒りの噴出であった。

中略

これらの運動が、2016年の左右の激しいポピュリズム噴出につながっていく。

トランプが「オバマは外国生まれだ(大統領になれる資格がない)」という主張(バーサリズム)を激しく唱え出すのも2011年ごろからだ。それが市民の間に広がる素地は、中間層の崩壊を招いたオバマへの市民の怒りにあったと考えられる。

バーサリズムは元来、2008年大統領選の民主党大統領候補選びで、オバマと激しく争ったヒラリー・クリントンの支持者から始まった。それが、トランプによって復活させられ、共和党陣営に利用された。これも民主党共和党の合作なのだということは忘れない方がいい(Ben Smith and Byron Tau “Birtherism: Where it All Begin,” Politico, Apr. 22, 2011.)。

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