『俺がユンボで日本を救う?』 wombat著  確かにこれだったらアメリカに勝ってもおかしくないかもと思わせるところが僕的には凄いセンスオブワンダーだった。たとえ妄想でも、そんなの初めてだもん(笑)。

俺がユンボで日本を救う?
作者:wombat
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おっ、、、おもしろかった。架空戦記、、、もし日本が先の戦争でアメリカに勝ったら?とかそういう妄想はたくさんあるのですが、この小説もそういうコンセプトで始まった、その類型だと思うんですが、そんなに期待しないで読んでたのですが、読了して、びっくり。これ、傑作じゃねぇ?って、ちょっと感動しちゃった。

一つにはね、こういう歴史IF系のものって、なんというか思想的なイデオロギーや「正しさの説教臭さ」みたいなものが入ると、途端に胡散臭くなってしまうんですよね。たとえば、現代ものでは、要は善悪二元論的に、悪者中国がいて、それと正しいものである日本みたいに描写がわかれちゃう。もちろんそういうナショナリスティツクでかつナルシーなものをこそ、せっかく小説なんだし物語で読んで自分の正しさに酔いたいんだよ!というのはわかるので、それはいいとしても、でもやっぱり、なんというかWW2での日本の敗北はまさにそういうナルシー的な自分たちの「空気の思い込み」に酔ってしまって、客観的な目から見たらどう見えるの?というのが見えなくなってしまったが故ってところがあるので、「そこ」を超えるとか、そこを問題視する物語でないと、なんかまったく過去に学んでないじゃん、それじゃあ物語としても面白く酔えないよ、って思ってしまうんだよねぇ。なので、どうしても、架空戦記の俺ツェ〜系のナルシーなものを日本という国や軍隊とか自衛隊に当てはめる系の物語は、いまいち、僕はうまくはまれないんですよね。嫌いじゃないんですが、どうしても、批判意識が強くしこりになって、楽しめばいいじゃんって気になれない。


けど、これ、ユンボ大好きな男の子が戦前の日本にいって、日本の未来を変えちゃうという話、、、、ようは、架空戦記物の日本強いぞ!系みたいな話なんですが、これ全部読むとはっきり分かったんですが、全然酔ってないんですね。ほとんど実は主人公がユンボ大好きって設定は、この日本の歴史を変えていくことには大きなキーにはなっていないんじゃないか?って思うんですが、この主人公がユンボが好きなだけというような、思想的なものを持たない人だからこそ、たぶんぐっと冷静になっているんだろうと思うんですよね。特殊兵器とかSF定番のスーパーウェポンとかも出てこないし。ユンボ開発とか産業の底上げが多少されても、別に日本がそんな極端に強くなるわけでもないんですもん。なので、結局のところ、日本が普通の大国として、どう他の国々との連携をしていくかってことに終始、焦点があっている。ようは、これって外交にフォーカスしているんですよね。それに、この主人公を拾った中尉さんが数十年の年月をかけて、海軍と陸軍が仲が悪いのを見越して統合幕僚部を作ったり、教育を統合して同期生にしちゃったりとか、日本が犯していく究極のミスをなくすようにジワジワ対処していく。中国に領土的野心を見せない姿勢を貫く部分の外交方針とか、満州の幻影に固執した過去の日本からするとありえない態度なんだけど、どーせ石油が出ないんだから、いらん(笑)とかいうのは、ああ、確かにそうなんだよなーって、読んでて笑ってしまった。


日英同盟を徹底的に破棄しないとか、いやはや、ほんとうに当たり前といえば当たり前のポイントを、普通の常識ある国としてちゃんと統合的に進めて行くと、おお、、、こういう可能性もありえるのか!といろいろ唸ってしまった。もちろん、ナチスドイツが、ユダヤ人を国外追放にして、同盟が組めなくなるほどの人種的な差別と殺戮をしていないとか、英国と米国が仲たがいをして英国が枢軸国側で参戦しているとか、さまざまな仮想でしかないような部分はあるんだけれども、、、、、それでも、たとえ物語にせよ、僕はアメリカが最終的に、ああこれならばアメリカが屈服するシナリオとしてはありだなと思わせるものを見たのは初めてだったので、感心してしまった。だってアメリカってもの凄すぎて、負ける要素が全く考えられないほどのスーパーパワーなんだもの(笑)。けど、この順番だと、ああ、ありうるかも!って初めて思えたんで凄い感心してしまった。大きな海戦やハワイ占領作戦とかも、日本軍は相当上手くやっているけれども、ほとんどすべてが半分は負けの設定になっているところも、リアルだなーって、かっこよく一方的には全く勝てない。ドイツ軍に呼応して、ウラジオストックからガンガンソ連を全力で攻め上げるというのも、本当は枢軸国としてはそれこそすべきだったことだったんだよね。いやーこれ、ブレインストーミングとして、凄い面白い歴史IFでした。なんか、ぜんぜんナルシスティツクに酔っていないところがいい。


ちょっと違うけど、前に読んだ佐藤優さんの下記の本を少し思い出しました。最終的には、メキシコとカナダを動かして、南米と切り離さないと、アメリカは屈服しないんだよね。っても、その前提トンデモすぎるんだけど(笑)。


超訳 小説日米戦争