評価:未完のため未評価
(僕的主観:★★★★☆4つ半)
なんだろう。大枠を説明すると、女性スナイパーの架空戦記だと思っていたら、かなり手が込んだSFでしたよ!って話。
ウルナ・トロップ・ヨンクという女性狙撃兵が、孤立した島で、蛮族ヅードの侵攻を食い止める砦に配属されるところから物語は始まる。彼女は、志願兵で新兵。本当に普通のどこにでもいる女性。少しずれているといえば、彼女が孤児で田舎の孤児院で、暖かくみんなに愛されて育ったこと。とても愛され幸せだったが故に、愛する故郷を守りたいという愛郷心から兵士に志願したこと。しかし女性だということで、辺境の蛮族の警護という、一見、最前線から遠い重要度の低いといわれる砦に配属される。初日から彼らとの戦闘を経験するが、それは、人間には見えないおぞましい人間大の「歯」だった。
それにしても話が渋いんだ、絵柄も。狙撃兵の架空戦記で、辺境の隔離された島の、雪に閉ざされた砦の話ってだけで、閉塞感あふれるじゃないですか。絵柄も本当に渋いので、こういう渋すぎるテーマと絵柄って、マイナーな穴に落ちて行って、作者の「伝える力」がほとんどなくて、自己陶酔のオナニーになってしまうんだよなぁと思いつつ、読み進めていったら、じわじわと世界が広がって、物語の構造の広がりにつやを感じて、いやはや素晴らしい。まだ新刊は出ていないが、どうもこの島を出ていく話に展開するらしい。まさか、この島を出るなんて設定があるとは思いもよらなかった!(そもそも人気なくて打ち切られるぞ、すぐという感じだったのに)。いやはや、これは、いい作品です。濃厚なマイナーSFの閉塞感という渋さをギラギラもちつつ、物語に広がりが生まれてきています。
それにしても渋みのある設定がいい。女性だけのを描いた白井弓子さんの『WOMBS』などもあるのですが、女性しかいない世界で、しかも兵士しかいないという極限状況でのリアリティがとてもいいんですよ。リベラルが一周して成熟していく過程で、アメリカや余裕のないイスラエルのような国は、女性兵士が一般化しつつある現代。女性の兵士の中にも、様々なタイプがいるのは当然であって、主人公は、とても普通の女性。男勝りに気張りもしないし、レズビアンでもなければ、かといって宗教的熱狂やナショナリズムから狂って志願しているわけでもなく、本当に普通の女性。特になんということもない。それが、逆に、なんというか空恐ろしいという感じがする。女性が中心で兵士をやっていることに、特別感もなければ気負いもない。初回の戦闘で、最初の自分を運んでくれた兵士が、身体をバラバラに引きちぎられる。自分を口説いていた男性のちぎれた頭の肉片を、戦闘後、黙々と片付ける。上官は規律があるが、兵たちは、ざっくばらん。兵士全員が、女性であることを除けば、本当にどこにでもある戦争の現場。まるで、初めて見た時の『西部戦線異状なし』の映画を見ている容易な典型的な。それがとても独特の雰囲気を醸し出している。あたりまえの戦争の物語のワンパターンなのだが、、、これが登場人物が全員女性というわけでもなければ。この枯れ木の様にカサカサした荒涼とした殺伐とした雰囲気を、この設定で描ける、描こうとする作者はなかなかのものだと思います。北の極寒の大地の荒涼がその背景にとてもあっている。
白井弓子さんの『WOMBS』などは、やはりSFの設定が濃くて、テレポーテーションができる女性を人間爆弾に使うというもので、そのためには、空間移動できるその星の野生動物の子供をおなかに移植して妊娠していると誤認させて、母体がコントロールするというものでした。そのSF設定では、女性の生や母性というテーマがビルトインされており、それはある意味、男性には理解にンシク不可能なセンスオブワンダーというものになるわけですが、『銃座のウルナ』は、そういう特殊な設定はなにもありません。そこがいい。なんというか、SFが好きな人からすると、逆にそういう女性性を使う設定はむしろ定番で。そこをどう料理するかは味付けの妙なんですが、僕は、このウルナは、まったくそういう女性の在り方に特殊性というか、申請しというか、そういうものを置かないで、兵士の日常を表現しているところに、逆にセンスオブワンダーを感じました。女性という性を特別に描くのではなく、普通に人間としてここを描けば、当然に普通の、、、この場合は兵士の日常がそのまま再現されるだけなんです。マッチョマンなやつも優等生なやつも、不真面目なやつもゴロツキも、なんでもいるのが、その多様性が人間で、人間をそういう風に描けば、「普通」にしかならないんです。そこに男性がいなくて、通常は男性のみが行ってきた兵士の世界であっても、それはやはり変わらないんです。というのが、まざまざを見さえつけられて、なかなかのセンスオブワンダーです。
うーむ、こう書いてきて、この作品の主人公のウルナの動機、、、これって『西部戦線異状なし』の時の兵士のようなものだな、と思えてきた。SFではあるが、それ以上に、この女性が、彼女の愛郷心が、どこへ着地するのかを見てみたいと思わせる。だから、やっぱり、この作品は3巻以降何処へどう展開するのかが、肝になるような気がする。この島を出て、この実験を、この子とした政府と国家に彼女は何を思うのだろうか。
ちなみに、狙撃兵というのがこの作品テーマではないですが、狙撃兵の話というと、『GROUNDLESS』がおもしろいです。
ちなみに、有名な狙撃手を扱った物語では、クリス・カイル 1974-2013(アメリカ)を描いた『アメリカン・スナイパー』やヴァシリ・ザイツェフ 1915-1991(ソ連)を描いた『スターリングラード』などがありますね。これらも参考に見ると、この類型の物語の広がりがいろいろ見えてくると思います。