『RBG 最強の85才』(RBG USA 2018) ジュリー・コーエン/ベッツィ・ウェスト監督 アメリカ国家50年の基盤を担う最高裁判事の席をめぐる戦い

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Ruth Bader Ginsburg

客観評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★★4つ)

3月17日。 COVID-19のため、ホームオフィスになり、子供達の学校もすべて閉鎖のため、家の中でやっているので、意外に時間がうまく使えている。いい機会なので、見れていなかった映画に時間を見たくて、『RBG 最強の85才』を見る。


Ruth Bader Ginsburgとは、アメリカ合衆国最高裁判所の判事で、アメリカの歴史上2人目の女性。クリントン大統領の時代、1993年に任命された。2018年サンダンス映画祭でプレミア上映、2018年に一般公開され、かなり売れたらしい。アメリカのことが知りたい僕には、素晴らしく面白いドキュメンタリーだったが、アメリカの基礎知識がないと、少々わからないかも、と思うので、★ひとつ減。


なんの映画かというと、アメリカの女性の解放、権利獲得の重要な契機になった人で、カーター大統領に判事に指名され、クリントン政権最高裁に任命された人。なので、アメリカの女性解放の歴史の主軸のひとつの物語だと思えばいい。アメリカにおいて、50−100年単位のロングスパンの社会の変動を見るときには、連邦最高裁の判事の構成(リベラルと保守派の比率)と、憲法解釈を追うといい。1960−1970年代は、50年代までのガチガチの保守的な社会を、リベラルサイドに、ぐっと振り子を振ってきた歴史がある。その後、1980年代以降、揺り戻しが来ているが、それでも、この時代に動いたリベラルへのシフトはアメリカ社会で継続してきた。それは、最高裁がリベラルな判決を出し続けてきたからだ。しかしながら、この状況がかなり変わってきている。それは、保守派の比率がリベラルを上回ったからだ。中立だったケネディ判事に変わって、トランプ大統領が、2018年10月にブレッド・カバノーを連邦最高裁判事に任命した。これで比率は事実上逆転。地位は終身なので、この任命が大統領の重要なレガシーのの一つとされている。なぜ、RBG なのかというと、87歳(2020年現在)という高齢で、彼女が亡くなると、さらにもう1席、トランプ大統領が任命が可能になる。そうすれば、保守派の比率が完全上回り、キリスト教福音派ファンダメンタリストの悲願である中絶の禁止や同性愛結婚の否定など、これまでリベラルサイドに偏った(と彼らが思う)振り子が反対側に触れる可能性がある。次の民主党のリベラルな大統領が誕生するまで、なんとしても、彼女はやめたくないし、死にたくないのだ。


なので彼女の健康状態は、非常に注目されるところであり、これが今後アメリカの大きな方向性を握る重要な分岐点になる可能性があり、それはたった二期8年の大統領職よりも、アメリカの根幹のあり方に関わる重要事項だとおもわれている、という背景文脈なしに、このドキュメンタリーを見ても、ただの(それでもすごいのですが)女性解放の闘士の物語を見ました!素晴らしかった!で終わってしまう。


さて、コツコツ女性解放の歴史やその理念などを追った物語を見ようと思っている。


というのは、最近の時代の雰囲気は、女性の権利の獲得が、実際の既得権益の男性マジョリティに食い込み、かつ全体のパイが増えていない中で、激しい既得権益をめぐる攻防になってきている。こういう時のロジックは、女性の権利が行きすぎて、男性の権利を食いつぶしている!(逆差別だ!)という感情になるのですが、、、、、僕は、動物の脊髄反射的な、情緒の反応はできるだけ避けたいと思っているので、このことをちゃんと考えるには、そもそも女性の権利獲得の歴史がどのような起源や経緯を経て、具体的ななイメージがわかないと、なんとも言えないなぁ、と思うんです。まぁ、なのでできるだけ、コツコツと探そうかな、と。背景知識がないと、考える手がかりすらなくて、感情的な好き嫌いの次元いなってしまうので、そういう会話って不毛で気持ち悪いので。


あともう一つは、キリスト教原理主義とでも言おうか、、、、宗教的情熱をもった保守派のリベラル勢力に対する最大の論点は、中絶問題。彼らの視点から言えば、中絶は、どんな理由をつけようとも殺人であり、受け入れることができない。リベラル勢力からすると、これは女性の権利獲得であり、男性に踏みにじられてきた女性の決める権利になる。この争いは、どちらも、論理的には、非常に納得性があるので、、、もう個々の具体的なものを見て、どちらに究極シンパシーを感じるか、という根源的なところまで遡らないと、判断できない問題だと思うのです。アメリカで言うところのプロライフ、プロチョイス問題ですね。


まぁ、問題の構図は、わかるのですが、「ここに至る具体的な経緯」を感情の理解(シンパシー)とともにわからないと、なんと言うか、公平じゃないと言うか、、、、俯瞰して見れないよね、と思うのです。全ては具体的な積み上げのが重要だし、何よりも、起源、、、、そういった感情や意見が、どのように生まれ育ってきたかのプロセスを感じれないと、比較にもなりゃしない。


そう言う視点で眺めてみると、なんと言うか、、、、、いやー女性解放の闘士なんですが、第一世代の、まさにスーパーマンとでも言える人だよなぁ、としみじみ思いました。だって、大学行きながら、子育てをし、旦那さんは癌の闘病生活とかしながらも、トップクラスの成績を維持し続けているとか、なんと言うか、凄すぎて言葉も出ない。あと、いつも思うのですが、本当に激しい社会闘争を担い続けるぐらいの最前線に立つには、パートナーの圧倒的な理解度、パートナーが信じられないくらい素晴らしい人に恵まれないと難しいよなぁ、としみじみ思います、いつも。こう言うのを見ると、『バトルオブセクシーズ』のキング夫人の方が、もっと赤裸々で、、、、と思ったけど、あれも旦那さんできた人だった気が、、、。まぁ、社会的な業績を成し遂げるくらいの人は、配偶者とか近しい人が、人生をなげうって支えてくれるほどの献身的な人でないと、無理だよなぁといつも思います。それが女性であるか男性であるかとか関係ないんですよね。要は「自分にフットして支えてくれる」魂の配偶者に出会えるかどうか。いやーこれは、本当に難しい。なかなか、そんな恵まれた出会いはないよーと言いたくなってしまう。


ちなみに、僕はが最も印象に残ったのは、、、、故アントニン・スカリア判事判事との交友関係。彼は保守派で、本来、相容れない仇敵のような相手。法律面ではことごとく対立しているのをジョークめかして話しているが、、、なんか仲がいいんだ、これが。もう相当おじいちゃん、おばあちゃんだからいいけど、こんなにイチャイチャしてたら、旦那さんやきもきしない(笑)というぐらい、仲がいい感じ。これは素晴らしい人なんだなーと、しみじみ思う。というか、この陽気な感じ、旦那さんにそっくりだよね、、、こういう人と相性がいいんだろうなぁと思うのですが、ちゃんと、イデオロギーとかを乗り越えて、人間的な関係を気づけるところが、そんじょそこらの人とは違うのだなぁ、としみじみ思いました。だって、こんなにイデオロギーというかリベラル側の論理の闘士みたいな人が、保守派の頂点に立つ相手と仲良く友達になれるって、尋常じゃない。いや、この人の懐の深さが、感心する。むしろ、その辺りに、人間的な器の大きさを感じて、ああ、稀有の人材なのだなぁ、と感心しました。生きる伝説みたいな人なので、是非とも、この映画を見てみると、アメリカの大きな論点がわかって興味深いです。

www.bbc.com

あと、彼女のでキュメンタリー的な、位置付けなので、女性の置かれている過酷な状況のエピソードの積み上げというよりは、法律という世界で、戦略的に彼女がどんな変革を成し遂げてきた業績の積み重ねなので、もっと個別のエピソードを見るには、ビリーブのほうがいいかもしれない。とはいえ、このへんの、女性の置かれてきた環境の過酷さと、戦いの歴史を見るには、とてもいい。どうやって、RBGがアメリカを変革してきたのか、その手法がよくわかる。




ビリーブ 未来への大逆転(字幕版)



RBG Trailer #1 (2018) | Movieclips Indie

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