多国籍企業シャフト・エンタープライズ・ジャパンの企画七課(表向きはゲームを作る部署のようだが、要するにシャフトの裏の悪事を引き受けている所)のほとんど経歴不明の謎の課長。いつもニコニコしていて滅多に笑顔を絶やさぬ男である。日本に来る以前は香港で「リチャード王」と名乗って悪さをしていたらしい。黒崎君をはじめとした一筋縄ではいかぬ企画七課の面々をその何ともいえぬ魅力で統率し、警察とシャフトの重役たちを手玉にとって、「イングラムとグリフォンどっちが強いかな?」という『遊び』を実行して楽しむ究極の愉快犯。この「天才肌」の内海課長と「切れ者」の後藤隊長の裏の頭脳戦が「パトレイバー」の魅力の一つだった。ぼくはこの今まで見たことがない『悪役』に一発で夢中になった。(あまり関係ないが内海課長と黒崎君を見てると「大鉄人ワンセブン」のキャプテン・ゴメスとチーフ・キッドを思い出します)愛嬌があり、どこか憎めないキャラクターでありながら、自分の『遊び』を邪魔する者は決して許さない。「内海課長って犯罪はするけど決して人は傷つけないよね」みたいな、一種アルセーヌ・ルパンのような印象を読者に思わせておいて、突然イングラムとグリフォンの対決に水を差したSSS(シャフト・セキュリティ・システム)の隊長を平然と爆死させるというエピソードは、内海課長の悪役としての『怖さ』を浮き彫りにする絶妙の演出でかなり気に入っている。
内海と同じくシャフトの重役たちも、ある意味新鮮な『悪役』として印象に残る。天才の内海に振り回されてはいたが、娘の受験を心配しながら悪事に奔走するといった現実的な行動は「危ない橋の一つも渡れなきゃ業績など上げていけるものか」という企業戦士ならではの『覚悟』を感じさせ、「企業ぐるみの悪事ってこんな感じに進んでくのかなあ」というリアリティを与えてくれた。
漫研〜私の愛した悪役たち〜第6回 内海課長 (機動警察パトレイバー)
http://websphinx.net/manken/labo/badd/badd.html
□手段のために目的を選ばない男〜悪役の企業人の独創的な類型
これ、、、、しびれます。僕、初めて出会った時から、内海課長が好きで好きでたまらないのです。考えてみれば、彼も
「手段のために目的を選ばない男」
と、呼ばれています。
そして、なぜしびれて、今に至るまで僕の心をとらえてやまないのかは、わかります。それは、この企業社会の中での悪役という人格類型は、いまだ全く見ない独創的なものだからです。彼はシャフト・エンタープライズという外資系重工メーカーの企業人ですが、シゴトを完全に趣味として「遊び」として考えています。そして、この遊びは、明らかに「蕩尽」を志向していて、何らかの拡大や進歩を一切目指していません。またそこに至るための手段に関して、ほとんど倫理的、道徳的限界も存在しません。しかしながら、外資系のシャフト・エンタープライズの世界戦略の中で重要な事業戦略の一部として自分の趣味を接続させています。だから、彼の「趣味」は通るんですよ、現実世界で。これは凄いことだ。だからです。
少なくとも僕は、この類型を見たことがありません。もしあったら教えてほしいです。超見たいので。
そして同時に、僕の生きる上での指針となっている姿勢でもあるります。ちなみに、基本姿勢として、内海課長の敵側のシャフトの重役たちの感覚は、ほとんど内海と同じです。内海課長と違うのは、出世と自分の成したことによって影響力を維持しようとするという1点だけです。内海課長は、そういうことには一切興味がありません。・・・・ここまで犯罪に敷居が低い意識は、コンプライアンス上どうかとは思うが(苦笑)、しかし真のビジネスは、こういう感覚だと、僕は思う。
僕は、これを見た時から、内海課長のような大人に、ビジネスマンになりたい!と志して生きてきました(笑)。ジョークでも何でもなく事実です(ほんとマジデ!)。
昔ある商社の偉い人に、
「刑務所の壁の上を歩くことが、ビジネスをやるときの基本だ。」
と言われたことがあります。どういう意味かというと、法律のはざまの部分を見つけ出して、絶対に非合法にはならないけれども、法律的にはかなりグレーの部分を見つけ出して、そこを攻めろ、という意味です。ちなみに、
「社会人として、絶対に刑務所側に落ちることは許されない」
とももちろんいっておりました(笑)。でも、第3世界とかや全世界でシゴトをすると、もう何が何だかわからなくて、そもそも何が法律か?とかわからないところもたくさんありますので、この意見は、ある種の凄みを感じさせるものでしたねぇ。
□シゴトは遊び?〜心底ゼロベースで遊んだやつが案外ビジネスの勝者になるものだ
ちなみに、シゴトの企画力が上がり、その実施力が上がれば上がるほど、この「遊び」という感覚はついて回ります。なぜならば、ある種の新事業や独創的なビジネスは、多分に「賭け」いいかえれば「確率論のギャンブル」的要素を強く含むので、どうしても自分のエゴでそれを進めているという気分になってきやすいのです。また、そうやって切り離して冷静に見た方が、実は、ビジネスは成功しやすいようなのです(個人的体験として)。あまり思い入れたり、常識的な視線(倫理や道徳)((ちなみにこの倫理や道徳を無視しろと言っているのではなくて、思い込みなどを配してゼロベースで物事を発想するためには少し露悪的に考えた方がしやすいのです))をベースに考えると、まず失敗します。そうすると、どうしても必死に「遊んでいる」ような気分になっているんですね。
社会のいまあるリソースを肯定しながら、それを最大限に引き出して自己実現を図ることです。
僕の尊敬する上司がいつも斜に構えていっていた言葉です。
「シゴトは好き嫌いでするもんなんだよ!。自分が好きなやつと好きなシゴトだけできるような事業にするのが、できるやつってもんだ!。おれはこのビジネスってフィールドでわがままを貫くためにやってるんだ!!。」
僕はこの上司のDNAを色濃く受け継いでいるので、こうありたいといつもひそかに考えています(笑)。ちなみに流石に大企業では非常に珍しいキャラクターではありましたね(苦笑)。
□「頭は優位に立ったときこそ下げるもんだ!」
『機動警察パトレイバー』コミックス第17巻 より
心に残るこの一言、2000年の最初は『機動警察パトレイバー』からこの一言。シャフト・エンタープライズ・ジャパン企画7課の内海課長のセリフ。人型ロボット“レイバー”が土木、建築の分野で飛躍的な貢献を果たす一方、“レイバー”を用いた犯罪も急増、それに対抗するために警視庁警備部特殊車輛二課に配された篠原重工製AV-98“イングラム”にケンカを売るため(?)にシャフト・エンタープライズ・ジャパン土浦研究所が総力を挙げたTYPE-J9“グリフォン”。内海課長率いる企画7課が立ち回りイングラムやAVS-98など警視庁のレイバーとケンカをしてきたが、あまりの内海課長の活発な動きを危惧したシャフト・エンタープライズ・ジャパンの上層部との確執が深まり、ついに内海課長を拘束、グリフォンを取り戻そうとした矢先にグリフォンを積んだトレーラーを上層部側が見失ってしまった。もちろん内海課長が手を回したことである。
社内の経費の使い込みにより“グリフォン”を運営してきた事実が上層部側に発覚したことなど、企画7課側に不利になりつつある時に内海課長の部
下“黒崎くん”が上層部側に拘束された内海課長に「専務たちに頭を下げるべきです」と進言した返答が
「黒崎くん、自分が不利の状況で頭を下げるのは下策だよ」
上層部がグリフォンの在処を探索していたが内海課長の手回しによりグリフォンを積んだトレーラーを上層部側が見失ってしまった時のセリフが
「頭は優位に立ったときこそ下げるもんだ!」
名言の宝庫たる『パトレイバー』の中でも光り輝いている(…というもの言い過ぎか)この一言、私が就職して以来、この言葉の真実味をしみじみと実感している。少なくとも私はこの言葉の通りに仕事を進めている…(笑) http://www2u.biglobe.ne.jp/~r-chaser/word/word2.html
「頭は優位に立ったときこそ下げるもんだ!」
ちなみにこのセリフは、僕の心を支配している人生訓です。会社で、自分のポジションが強ければ強いほど、指揮権があればある程、僕は頭を下げます。土下座も平気です。自分が実質的に優位であるのならば。
・・・・逆に、実質的に下位の場合は、絶対に弱みは見せません。食いつかれるからです。なるべく自分が強い時に頭を下げまくっていると、弱くなったときに助けてくれる人が多いのも重要な戦術の一つです。
いやー漫画は役に立つなー。処世術として(笑)。
□どうでもいいものごとを、おおごとにして人生を楽しむ術〜いまある手元のリソースで最大限の人生を遊べ!
伊藤悠氏が、指輪世界の第二日記で、ゆうきまさみの造形するキャラクターで『究極超人あ〜る』に登場する鳥坂センパイとの類似性を上げているが、これも同感。
硬式テニスに明け暮れていた高校時代の僕は、究極超人あ〜るのトサカ先輩に憧れて、当時テニス部コートの更衣室の隣にあった写真部の暗室に度々顔を出すようになり、いつの間にか事実上の半部員のような存在で、あの漫画に描かれているのとほとんど同じ撮影旅行をやったことがあります(笑)。思いつきで大垣夜行に飛び乗って、みんなで意味もなく、問題をおおごとにして意味不明のことをして高校生活を楽しんでいました。青春18キップで、延々九州までいったのを覚えています。・・・・人が乗ってこない電車で、上の荷物置き場の上で寝たり、夜行列車の普通座席に寝袋ひいて寝たり・・・(苦笑)。僕は、体育会系のテニス部員でしたので、非常に奇妙な目で見られましたが、その毎日が祝祭空間みたいな雰囲気が好きで、テニス部以外の時間は入り浸っていました。
彼らの姿勢は、現実的な、日常的でそれほど特別でもない物事を、組み合わせ演出することで、おおごとに持っていくことにある。「何かことが起こると、わざと大ごとにする」「日常を自分の意志でイベントにする」(「究極超人あ〜る」と「げんしけん」 その2http://d.hatena.ne.jp/ityou/20041216)祝祭空間を借りてその中に入るのではなくて、自ら構築して開催する。ファンタジー世界で起き描かれるイベントのおおごとさのマグニチュードを目指して、現実世界で手持ちのアイテムを配置して、それに匹敵するマグニチュードを発生させる。わかりやすいのは、カレーもかき氷も現実世界のアイテムであるが、その組み合わせであるカレーフラッペは容易ならぬ物体だ。
□2004-12-16 幸福な生活と、内海課長の圧倒的に強力な社会性/指輪世界の第二日記(by 伊藤悠氏)
http://d.hatena.ne.jp/ityou/20041216
これって、今のような成熟社会で生きる重要な知恵じゃないか?って僕は思っています。
言い過ぎかも知れないけれども、ゆうきまさみさんの『究極超人あ〜る』を読んで、
日常の楽しみ方
を教えてもらった気がする。
なぜなら、この作品の登場人物たちには、物語の中であるにもかかわらず、目的意識が存在していないからだ。
これはすごいことっすよ(笑)。
にもかかわらず、物語を構築できるゆうきまさみという人も、見事なプロフェショナルだと思うけど。週間少年サンデーに出たての頃は、アニパロのイメージが強かったのになぁ。いまや堂々たる『機動警察パトレイバー』『じゃじゃ馬グルーミング★UP』を連載したプロだもんなぁ。それにここで描かれている光画部やOB、OGたちの人生はとても面白いだろうが、あんまりお金や地位を必要としない楽しさなんだよね。それもまた凄い。たわばんさんが、『列車の写真を撮るのだ!』というただの思いつきで、いきなり旅しちゃうのなんか、参考になったなぁ。今では日常になったけど(笑)。終わりなき日常を緩慢に楽しむって感じです。あっ、ちなみに高校の写真部とかは、雰囲気同じですよねー。
『究極超人あ〜る』ゆうきまさみ 目的意識のない生き方
http://petronius.ameblo.jp/petronius/entry-10001816934.html