評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)
読了。重厚な物語だった。典型的とか、古典的とか、骨太とかそういう言葉が読んでいて何度も浮かびました。というのは、古き良き時代のSFを感じさせられたからで、逆をいうとそれなりにSF作品のパターンを知っている世代からすると古臭くも感じられて、そのへんの失望感があるにもかかわらず物語の力にぐいっと首ねっことをつかまれて、引き込まれていく不思議な印象を受けたんです。
あとがきの中のインタビューの部分を引用してみる。
いま、SFって高度化していますよね。過去に書かれたSFの上に乗っている。そうすると、初心者がいきなり最先端ものを読むとなかなかとっつきにくいかもしれないなと、入門編というわけじゃないけれども、SFを読みこんできた人も十分楽しめて、なおかつ読んだことない人でも大丈夫な作品にしたいというつもりはありましたね。
p544
ああ、まさに意図している通りだな、と思います。読んでいて古き良き古典SFを初めて読んだ時の感覚が甦ってくる。骨太の小説なんだと思います。けれど、少し違うのは、僕らはSFのパターンを幾通りも体験してすれてしまった読者であって、ある種の「目新しいことは何もない」という失望感も感じます。「にもかかわらず」、古典SFの「主人公が世界の謎を解き明かす」ことや「いま住んでいる幻想の管理社会を告発し、新しい社会へ変化していく」と言ったSFの定番の「壮大さ」を感じさせてくれるのだから凄いものだと思う。あとがきで、評論家の大森望さんが書いているように、これは、骨格のSFのテーマというマクロの背景の安定した描写のみならず、登場人物たちのミクロの関係内的葛藤が、「生きたキャラクター」になっているからだと思う。キャラクターが生きると、「そこに世界がある」という実在感が生まれるので、すれた読者である我々にも臨場感を感じさせることができるのだ。
一言でいうと、SFに慣れていない人が読んでも、きっと面白いと思わせる導入する力を持った安定した作品です。僕は、久しぶりに重厚な作品を読んだぁぁ!!という満足感を得ました。この人の他の作品も読んでみたいですね。
もう一つは、忙しくて余裕がない時はいつもライトノベルや漫画など軽めの「癒し」を求める読書の姿勢が僕にはあるのですが、ライトノベルにある挿絵がないことや、主人公の描写に萌え的な要素がない状態が延々と続くので、ある種、最初読みにくいなーと思ったのですが、逆にそうでありつつも、、、言い換えれば「目隠しされた状態」で話に引き込まれているうちに、世界の情景のイメージや主人公たちのイメージが自分の内面で造形されていく、小説本来の持つ味わいを感じました。そういった面でも、ああ、古き良き小説だなーと思いました。SFの設定にせよキャラクターの記号化にせよ、昨今の読書は、とてもウェルメイドでコンビニエンスにできているんだな、と痛感しました。そしてそのコンビニエントさを超えても読ませ続ける「筆力」がある作家が、それほど多くないことも。いや作者だけではなく、読み手の消費者も、コンビニエントさに慣れ切っているのかもしれない、と思いました。
ちなみにSFの似た系統の作品をいかにあげておきますので、ぜひ読んだことない人はトライを。